複眼の映像 -私と黒澤明-
橋本忍著 文芸春秋刊 ¥2,000(本体価格) ISBN 4-16-367500-0
☆☆☆★★★
「羅生門」「生きる」「七人の侍」・・・
生き証人が初めて語る、黒澤明との共同シナリオ制作現場の息づまる死闘!(本書、帯コピーより)
黒澤明作品の脚本は、初期と晩年の作品を除き、必ず他の脚本家との共同執筆になっている。主な共同執筆の脚本家は、橋本忍をはじめとして、菊島隆三、小國英雄、久坂栄二郎の4人。タイトルの「複眼の映像」とは、この共同執筆によるストーリーを練り上げていく視線の事を現わしている。
何とはなしに立ち読みしはじめたら、これが無類に面白く、即購入。2日ほどで読了してしまいました。まさに、黒澤監督と脚本家たちの戦いが、この本のすみずみまで描かれていて、黒澤映画ファンの私としては大いに堪能してしまいました。
また橋本忍の自伝として読む事も出来る作品で、私としては脚本とはいかにして書かれるべきものなのかという事を多いに学ばせてくれた書籍でもありました。
何と言っても、やっぱり一番迫力があったのは、「七人の侍」の執筆が出来上がるまでの過程。もともと黒澤監督は、ある侍が朝起きて、その日の夕方には切腹をすることになる様な運命的な一日を描きたかったらしく、橋本忍以下、映画会社のスタッフに下調べを命じる。ところが、調べても、調べても、侍の日常というものの記録が見つからない。歴史学者に聞いても誰も知らない。2ケ月がすぎ、黒沢監督に報告すると烈火のごとく怒りだす。
橋本忍の返答。
「黒澤さんは一日に何回飯を食いますか? 僕は三回ですが、黒澤さんも三回だと思います。しかし、いつの時代から日本人が三度飯を食うようになったのか・・・それはどこの誰にもわからないんです。」 中略 「我が国には事件の歴史はある。しかし、生活の歴史はないんです!!」
といったいきさつは、黒澤監督のインタビューでも聞いた事があったのですが、結局、下調べの最中に発見したエピソードで、「農民が侍を雇って落ち武者からの略奪を防いだ」という記録に着目し、映画「七人の侍」が出来上がる。
その他、心に残ったのは、橋本忍のオリジナル第一稿の「羅生門」が黒澤監督との共同作業で映画化されるまでのエピソード。「複眼の眼」で見る共同執筆作業をやめてしまった「影武者」以降の黒澤作品の凋落を嘆く箇所。
松竹で撮った「醜聞」「白痴」で助監督についていた野村芳太郎監督が、「黒澤監督にとって橋本忍は会ってはいけない男だったね」と語るセリフも少なからず衝撃的でした。野村監督に言わせると、橋本忍が持ちこんだ「羅生門」で外国の映画賞を撮り、芸術よりの作家になってしまった事が、黒澤監督にとって大きな不幸であったと言うのです。
「僕は助監督についたからわかるけど、黒澤監督の力量は世界的なレベルを超えていた。- 中略 - 純粋に映画の面白さのみを追及していれば、彼はビリー・ワイルダーにウィリアム・ワイラーを足して、二で割った様な監督になったはずです。- 中略 - B・ワイルダーよりも巧く、大作をつくらせればW・ワイラーよりも足腰が強靭で絵が鋭く切れる。そういう監督がどんな作品を作るか、橋本さんにもわかるはずです。」
黒澤監督の娯楽映画のレベルが天才的なだけに、橋本忍本人と同じく、私も目の前がクラクラしてしまいました。野村監督って意地悪だな~。(汗)
共同執筆をしていた脚本家達、そして黒澤監督自身も世を去り、黒澤組最後のライターとなった彼が、特殊であった共同脚本の実態を世に残すために、執筆を決意した書籍だけあって、ファンにとって、それ以上に現役の脚本家達にとって、とても貴重な内容の本だと思いました。
黒澤映画ファンのみならず。全ての映画ファンにお勧めの1冊です。
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コメント
ごみつさん、こんばんは。
本の紹介ありがとうございます。これは、読まなくては!
菊島隆三氏が黒澤監督から切られた理由を明かさずに世を去っているだけに、橋本氏の証言貴重ですね。
>野村芳太郎監督が、「黒澤監督にとって橋本忍は会ってはいけない男だったね」と語るセリフも少なからず衝撃的でした。
黒澤明と橋本忍の本質を言い当てた発言なのでしょうね。
確かに橋本シナリオの真骨頂は、「日本の一番ながい日」や「砂の器」のように思えます。
しかし、黒澤と橋本、異質な才能がぶつかって素晴らしい化学反応を起こしたということでしょうか。
投稿: なつ | 2008年11月18日 (火) 20時32分
なつ さん
今晩は。
今日はご来店有難うございます!(笑)
この本は、次回お会いできるときに持っていきますので、ゆっくり読んで下さい。
菊島隆三氏とはどうもケンカしちゃったらしいのですが、詳しい事には触れられてませんでしたよ。
あ、それと「ベストヒットUSA」のDVD、やっぱり私が持ってました!
ごめんなさい。これも次回お返しできると思います。すいませ~ん。
投稿: ごみつ | 2008年11月19日 (水) 23時04分
ごみつさん、こんばんは。こちらこそ、お気遣い頂き、ありがとうございました。
「複眼の映像」の件もすみません。よろしくお願いします。
>菊島隆三氏とはどうもケンカしちゃったらしいのですが、詳しい事には触れられてませんでしたよ。
橋本氏と菊島氏がケンカしちゃったのでしょうか?それとも、黒澤監督に切られたのがケンカということなのでしょうか?
いずれにせよ、あの最強の脚本チームはずーっと続いてほしかった…。
土屋嘉男の「クロサワさーん!」読むと、土屋さんは、晩年の黒澤監督の取り巻き連中をすごく嫌っていて(ちょっと語弊ありかな?)、黒澤監督の出演依頼を仮病使ってまで断っていたというのが、読んでいて切なかったです。
投稿: なつ | 2008年11月20日 (木) 00時03分
なつさん
今晩は。
黒澤監督と菊島氏がケンカしたみたい。そのへんの詳しいいきさつは説明がありませんでした。本人同士にしかわからない事なんじゃないかしら。(゚ー゚;
「クロサワさ~ん」早く読みたいな~。晩年のとりまきって「影武者」で徳川家康を演じた油井昌由樹とかそのへんかしら。でも、それで土屋嘉男は黒澤作品に出なくなっちゃったんだ・・。
黒澤監督に自伝「蝦蟇の油」も読みたいんだけど絶版なんですよね・・。再版されないかな~。
12月、またゆっくりお話しましょうね~。
投稿: ごみつ | 2008年11月21日 (金) 00時15分