八月の狂詩曲 / まあだだよ
お正月休みを利用して、年末に録画しておいた黒澤明最後の2作品を鑑賞しました。この2本は、どちらも私は初見です。
「八月の狂詩曲(ラプソディー)」
1991年/日本 (監)黒澤明
(演)村瀬幸子 井川比佐志 根岸季依 河原崎長一郎 吉岡秀隆 リチャード・ギア
☆☆☆★★★
原作は村田喜代子の芥川賞受賞作品「鍋の中」。長崎に住むお祖母ちゃんと、4人の孫たちとのひと夏を描いた小品。「白痴」以来、久し振りの松竹作品です。最初、富士山マークではじまったのでびっくりしました。(笑)
お祖母ちゃんの夫は、長崎に原爆が投下された時に市内にいて死んでいる。お祖母ちゃんは、爆心地から8キロ離れ、山に囲まれた自宅にいたため難を逃れた。
前作の「夢」以降、黒澤監督は脚本を一人で執筆していて、以降の3作品は老境を迎えた黒澤監督の純粋な思いがこめられた作品だと言って良いと思う。何かのインタビューで大島渚監督が、黒澤監督のピュアな精神を最も現わした作品は「生きもの記録」だと言っていたのが思い出されます。
とても良い作品だとは思うのですが、正直な感想を言えば、孫たちが長崎市内の原爆メモリアルスポットをめぐるシーンなどは、説明が多すぎてどうなのかな~という気持ちになりました。やはり、脚本が独断になっているな・・・という印象が拭えない作品でした。それでも、毎度の通り、それを補うほどの素晴らしいシーンが多いんですよね。例えば、お祖母ちゃんの家のシーンと、孫たちとのやりとりなどは本当に素晴らしいです。
ハワイにいる兄の息子を演じたリチャード・ギアは前年に「プリティ・ウーマン」を大ヒットさせていて人気絶頂期。黒澤監督の写真を部屋に貼るほどの大ファンで、即出演OKしたそうです。
「まあだだよ」
1993年/日本 (監)黒澤明
(演)松村達雄 香川京子 井川比佐志 所ジョージ 油井昌由樹 寺尾聡 日下武史 小林亜星
☆☆☆★★★
黒澤監督30作目の作品にして遺作。最後の作品は、「静かなる決闘」以来、超久しぶりの大映作品。
作家、内田百閒とその生徒たちとの温かい子弟関係を描いた作品。予告編などでもよく放映されていた「まあだかい」のシーンが、何だか私は気にいらなくて、(所ジョージも好きじゃないし)ひさしく敬遠していた作品だったのですが、今回見てみて、何でもっと早くに見なかったのかと後悔してしまいました。
ああいうわざとらしいシーンになるのも、うなずける子弟関係の背景があるんですよね。それでも昔の子弟関係の密接さなんかを知らないと、やっぱりあんなシーンはあり得ないって思ってしまうかもしれない。
飼っていたノラ猫の「ノラ」がいなくなってしまい、百閒先生が物凄く落ち込んでしまうエピソードも良かった。このエピソードに関しては、内田百閒の著作に「ノラや」という作品があり、読んでみたくなりました。
それにしても私は内田百閒という人物に関してほとんど知らないので、もうちょっと何か読んでみなくてはと思いました。とりあえず百閒は夏目漱石の門下生なので、そのあたりからいろいろ当ってみようかと思ってます。
さて、これで黒澤作品全30作を全てレビュー出来ました。晩年のこの2作品は、老境に達した黒澤監督が、自身の内面に素直に向き合った上で選んだ作品なのだろうと思う。実際のところ、本当は黒澤監督向きのスタイルの作品ではないと思った。晩年は、成瀬監督や、小津監督の作品を良く見ていたらしい。
この後、1995年に「雨あがる」の脚本を執筆中に倒れ、1999年に死去。享年88歳。
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コメント
ごみつさま、
明けましておめでとうございます。
今年もどうぞヨロシクお付き合い下さい。
ごみつさんのこのページ、リンクを貼ろうとしているのですが、やり方がわからなく未だ貼れておりません。
もう少々お待ち下さい。
ほんとに映画、好きなんですね。
私はあまり黒澤とか観ないので、とっても参考になっています。
これからもどんどん載せてください。楽しみにしております。
投稿: RICA | 2009年1月 6日 (火) 19時26分
Rica さん
今晩は。
お正月は妹さんと楽しい時間を過ごせた様ですね。
こちらこそ今年もよろしくお願いいたします。
リンクはいつでも大丈夫ですよ。それより、ちゃんとコメントが入れられた様で安心しました~。
映画は小学生の頃から大好きで、絶対に映画関係の仕事につくぞ!って思ってた位です。
私が就職活動をしていた当時、唯一社員の募集をしていた東映を受けたのですが落ちてしまい、結局次に好きな本の仕事を選びました。
人に歴史ありですな。(笑)
投稿: ごみつ | 2009年1月 6日 (火) 23時35分
こんばんは。
あんなに一週間おきに胸躍らせていた黒澤全作品放送、晩年期に入った途端に態度が一変してしまった私ですが…
「八月の狂詩曲」に関しては、反核というテーマを一生を通じて追求した監督の「意思」には襟を正さずにはいられませんが、ごみつさんの仰るとおり、説明調の台詞・シーンが多く、なんだかリアリティが感じられないんですよね…
でも、最後にあの素晴らしいラストシーンが控えているのが、大きな救い。
あれは巨匠の最後の輝き、「白鳥の歌」だったのだと今になって思います。
「まあだだよ」に関しては、キャスティングの失敗もあるかなあ。大変失礼ながら、松村達雄のような好々爺タイプの俳優が演じるような人物ではないと思います<百間先生。
私も一時百間先生に凝って、今は亡き旺文社文庫でけっこう随筆集や小説を読みましたが、黒澤監督の描いた内田百間像が、私が感じたのとあまりに食い違っていたので、戸惑いました。
結局、黒澤監督は「弟子に慕われ賛美される百間先生」を自分に重ねたかったのでしょう、と言い切ってしまうのは酷かしら。
百間先生は怪奇小説も書いていてそれがまた背筋ぞーっとしたりするのですが、鉄道エッセイ「阿房列車」あたりから入るのがいいんじゃないかと、僭越ながらお薦めします。
投稿: なつ | 2009年1月 6日 (火) 23時51分
なつ さん
今晩は!
有難うございました~。
今、お借りしていた黒澤本も含めて関連書籍の記事を作ったところでした。両方ともとっても面白くてあっという間に読んでしまいました。
やっぱり、黒澤作品はモノクロの時代がすべてだと思います。って事は「赤ひげ」までなんですよね。三船敏郎とともに作り上げてきた作品が、黒澤作品の真骨頂なんだな・・って思います。
とは言え、日本映画が衰退していく中、高齢になるまで、本当によくがんばって映画をつくってくれたな・・と感謝したい気持ちです。
百間先生の作品、是非読んでみますね。私、ホラーが大好きなので(笑)、怪奇物から入ってみようかしら。
投稿: ごみつ | 2009年1月 7日 (水) 00時48分