ゾラの時代 1 居酒屋/ナナ
エミール・ゾラの代表作2点。ずっと読みたいと思っていたのですが、今回2作まとめて読んでみて、19世紀のパリで生きる人間達の緻密で写実的な描写と、センセーショナルな表現にすっかり感心してしまいました。しかし、この2冊読了までにけっこう時間かかりました・・。![]()
私も今回はじめて知ったのですが、この2作はゾラが25年を費やして書き上げた「ルーゴン=マッカール叢書全20巻」シリーズの中の作品です。バルザックの「人間喜劇叢書」に触発されたゾラが、自身の生きている時代のフランス(第二帝政期。ナポレオン三世の時代)の社会や人間の生活に関してのあらゆる事を描きつくすために書き始めた作品群が、この「ルーゴン=マッカール叢書」。
一人の女性が、ルーゴンとマッカールという別々の男性の間に設けた子供の子孫達の物語。(けっこう、壮大なんですよね)子孫の人生を細密に描いていく事で、ゾラは「時代・環境・遺伝」という因子が人間にどういう影響を及ぼしていくかを探究し、しいては人間と社会との関係を明らかにしていこうという狙いがあったと、文庫の解説にはありました。そしてこれが自然主義文学の代表作家と呼ばれる所以なのでしょう。
「居酒屋」
ISBN 9784101122144
☆☆☆★★★
叢書の第7巻目。主人公は洗濯女のジュルヴェーズ。彼女は二人の子供と共に帽子屋の夫ランチエに棄てられ、ブリキ職人クーポーと結婚する。彼女は洗濯屋を開く事を夢見て必至に働き慎ましい幸福を得るが、そこに再びランチエが割り込んでくる・・・。19世紀パリ下層階級の悲惨な人間群像を描きだした作品。(文庫解説より抜粋)
まじめに一生懸命働けば、ささやかながらも幸せな家庭が築けるのに、この作品の登場人物達は、その性格故に、破滅への道へとつき進んでゆく。アルコールに溺れ、愛欲に溺れ、真摯な者の意見に耳を傾ける事が出来ない。貧しい者達は、あれこれと隣人や親戚の噂をし、ねたみひがみ中傷は日常茶飯事。決して人を助ける事もしない。皆、自分の生活のレベルを安定させるのが精いっぱい。
「ナナ」
ISBN 9784102116043
☆☆☆★★★
叢書の第9巻目。「居酒屋」の女主人公の娘としてパリの労働者街に生れたナナ。生れながらの美貌に、成長するにしたがって豊満な肉体を加えた彼女は、全裸に近い姿で突然ヴァリエテ座の舞台に登場した。パリ社交界はこの淫蕩な“ヴィナス”の出現に圧倒される。高級娼婦でもあるナナは、近づく名士たちから巨額の金を巻きあげ、次々とその全生活を破滅させてゆく。
ゾラの最高傑作とされている作品。この二つの作品に共通しているテーマは、人間が欲のためにいかに簡単に人生を崩壊させていくかと言う事。それは、貧しい人間であっても、金持ちであっても変わらない。ナナは、その美しさを武器に、金持ちの男性を次々と破産させていくが、彼女は自身の欲望に忠実なだけなイノセントな女性です。心から愛していた役者と結婚し、貧しくても幸福を感じて生活していたナナを、その男はいとも簡単に棄て去る。この結婚の破たんから、彼女の贅沢を求める高級娼婦としての生活がはじまる。
もう一つ共通して驚かされるのは、性表現が当時としてはかなりあからさまなところ。今読んでも、けっこうスキャンダラスな印象を受けます。それに、当時日常使用されていたのであろう、汚い言葉の数々。当時は出版差し止め騒ぎなんかもあって大騒ぎになった様です。
「ナナ」はフランスとプロシアの開戦で沸き立つパリのシーンで終わる。叢書はこの後も続きますが、この2作は、ゾラの時代のフランスをあますところなく封じ込めたタイムカプセルの様な小説だと思いました。
この時代の雰囲気になかなか溶け込めず、読み終わるまでにかなりの時間(2ケ月位。汗)を要しましたが、読んで良かったと思える本でした。
「ルーゴン=マッカール」は 論創社より全巻出版されてますが、1冊5000円以上します。
他の巻を読むのはちょっとムリそう。
最後にゾラについて下調べをしていた時に見つけた松岡正剛氏の書評サイト「千夜千冊」の中の「居酒屋」の記事が面白かったので参考までに。
http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya0707.html
| 固定リンク
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- フラナリー・オコナー全短篇集(2009.10.25)
- 墨攻(2009.10.20)
- クレヨン・ハウス(2009.10.14)
- 壊れても仏像 ~ 文化財修復の話(2009.10.09)
- 泣き虫弱虫諸葛孔明(2009.10.06)

コメント
雰囲気のあるお写真、美しい装丁に、ノックアウトされました。
フランスの香りですね~。
内容もなかなか興味深く、読んでみたいな~と思いましたが
ちょっとクセがあるのでしょうか。読み難いですか?
投稿: セレンディピティ | 2009年6月22日 (月) 00時17分
セレンディピティ さん
今晩は。

この2冊は、19世紀パリの雰囲気に入り込めるかが大きなネックになる作品です。
ストーリーはドキュメンタリーかの様に、語られて行くので、難しくはないんですけどね。ただ、人の名前の判別が難しくて、誰が誰やらわからなくなってきます。(笑)それと2冊ともかなり分厚いんですよ~。ちょっとお勧めするのはつらい作品です。
私は会社の生き返りの時間だけ使って少しづつ読んでいきました。不思議と途中でやめようという気持ちにはなりませんでした。
一流の文学作品には、そういう力があるな~といつも思います。
表紙の写真お洒落ですよね。「居酒屋」も「ナナ」も映画があるので、そっちの方が簡単かもしれませんね。
投稿: ごみつ | 2009年6月22日 (月) 01時11分
高校生の時に、ゾラは集中的に読んだはずですが、思い出せない・・・! ただ字面を追ってただけで、内容を咀嚼していない読書であったのでしょう。赤面の至りです。
投稿: ヌマンタ | 2009年6月22日 (月) 12時43分
ヌマンタ さん
今晩は。
高校の時に読んだのでは覚えてなくて当然だと思います。
よっぽど心に残った作品じゃないと、読んだ本の内容ってどんどん忘れちゃいますよね。(;´д`)トホホ…
読んだ内容は忘れても、その時に感じた作品の精神みたいなものは、きっと心のどこかに残ってるものなんじゃないかしら。
読むタイミングも重要ですしね。
「ゾラの時代」は4まで記事にしようと構想中です。今の時点で彼の作品から感じた事をまとめておきたいと思って。記事にする事で自分の理解を確認しておきたい気もしています。
投稿: ごみつ | 2009年6月22日 (月) 21時03分